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新千歳空港国際アニメーション映画祭
記録②:ばかげていて不完全で魅力的なテクノロジー

タイトル文は、短編部門審査員のビデオアーティストYoshi Sodeokaさんによる授賞理由から参照しました。全文は「多くの人がテクノロジーを深刻に捉えすぎています。しかし、テクノロジーはしばしばばかげていて不完全なもので、でもそこには魅力的なものがあるのです。そして彼は、この素晴らしい短編映画でそのことを完璧なコメディに仕上げました。私を笑わせてくれた彼に感謝したい。」

 

ニキータ・ディアクル『Backflip』

 

短編部門グランプリ作品『Backflip』は、バク転をやってみたいという作家ニキータ・ディアクルさんが、現実的に危険な怪我を伴うので、機械学習の助けを借りてアバターに練習させるというもの。メキメキバキバキのホラー的動きをする最初の段階から計算と練習を重ね、成功までいつしか応援してしまう。劇場では子供たちが声を上げて笑っていたそうで、その場に居合わせたかったですね。アバターが白目向きながら「やればできる!」なんて、熱くならざるを得ないわけですよ。TOCHKAの「アニマ(魂)が吹き込まれる瞬間に立ち会った」というコメントがまさにこの作品の魅力を表している。ばかげて無機質すぎるアバターに、見る側も魂を送り込むのです。

 

羅 絲佳<ラ・シカ>『刀雨 – Be Gone』

 

今年のミュージック部門のセレクション作品のうち、スクリーンで見て最も印象が好転したのが羅 絲佳<ラ・シカ>さんの『刀雨 – Be Gone』でした。これはアガりました。本作は、AIが自動生成したビデオ素材に手描きアニメーションを描き足して制作した作品です。機械が生成するのだからもっと突拍子もないものが出来上がってくるかと思いきや、意外と人間のそれに近く、逆に全然いうことをきかず、ラ・シカさんは監督のような立場でそれをコンロトールしたとのこと。AIによる画像生成ソフトが出回った際、驚異のように騒がれたが、人的スタッフと仕事をしているような感覚に近い。AIをポジティブに自らの創造性に利用していくお話が非常に興味深かったです。

 

VTuberプロジェクト「ぽぷろい放送局」

 

もう一つ映画祭では、現在制作中またはこれから制作する作品のプレゼンテーションを行う「NEW CHITOSE AIRPORT PITCH」を開催しています。今年はアバターを使ったVTuberプロジェクト「ぽぷろい放送局」にアワード賞金30万円を授与し、ご一緒させていただくことになりました。正直、私に財力があれば、全プロジェクトに同額づつ配りたいくらいではあった。そんな中で「ぽぷろい」君は、ピッチの訴えるところがわかりやすく面白いのはもちろん、現在の映画祭が中高生のような若い層に広げる力が弱いので、この世界でもしかしてこんなこともできるのでは?と最もワクワクしたし、映画祭のニーズと合致していたことが授与理由です。既に3DCGのVTuberは数多くありますが、VTuber、3Dアニメーション、メタバースと、この可愛らしく凛としたキャラクターがバーチャル世界を横断し、小さなセーフティネットへのアプローチになるのではないか。彼のメッセージとともに、微力ながら冒険してみたいなと思います。

ここで余談を。ピッチを終えてぽぷろい君と私が二人で移動中、ある大きな事件の取材でマスコミのカメラが群をなして待機する場面に遭遇しました。うっかりその経路に入り込んでしまい、ぽぷろい君もゲストパスを身につけたままだったので、デビュー直後にいきなり「中身」が全国に見えちゃう!!と二人で激走して逃げたのが冷や汗ものの思い出です。始まる前に終わるところでしたね。

 

ばかげて不完全で魅力的なテクノロジーの遊び場をしばし勉強してみたく、新たな興味をくれる映画祭には改めて感謝します。ちょうど良いことに、来年の恵比寿映像祭のテーマは「テクノロジー?」!

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