2022年11月3-6日と4日間開催した新千歳空港国際アニメーション映画祭に関わってくださった全ての皆さま、ありがとうございました。各所事後連絡から、助成金の申請上来年の企画出しまでを終え、しばし倒れていました。ここで個人的に特に興味をひいた記録として、いくつか書き留めておきます。
コンペティション部門の日本グランプリは鈴木竜也さん『無法の愛』が受賞されました。本作はスマホ版と劇場版の2つがあり、スマホ版は全編YouTubeに公開されています。
スマホ版と劇場版の内容は全く同じで、異なるのは画面の使い方1点のみです。スマホ版は最初スマホを縦にして見るのですが、中盤、物語の転換にあたる場面から横向きになり、スマホを持ち替えることになります。では劇場版はどうなっているかというと、トップに掲載した画像が回転して黒味部分を侵食する形式。映画館を愛する監督が、スマホとは異なる劇場体験をねらったという、枠外へ物語が広がるスクリーンならではの活かし方をしています。
前作『MAHOROBA』も映画祭に出品してくださり、『MAHOROBA』は13分、新作『無法の愛』は22分と、個人作家の短編作品としては長尺にあたるのに2年連続の応募。制作の速さにちょっと驚きました。監督である鈴木竜也さんは、「ぴあフィルムフェスティバル」で入選歴があるような実写映画を作られてきていた方で、コロナ禍で撮影がやりにくくなったため、一人で黙々と進められるアニメーションに取り組んだとのこと。経歴を知らずに『MAHOROBA』を見た時は、近年の映画祭で紹介されてきた短編アニメーションの文脈とはまた違う面白い人が突然現れた印象でした。
この度の『無法の愛』は非常に映画的であると同時に、飛躍において、アニメーションでしかできない語り方をしています。登場するのは、「正しく生きようとして人生を間違えてしまう男」と、逆に「悪いことをして、わざと人生を間違えた女」。孤独に生きてきた二人の物語です。中盤までやっていることは無茶苦茶で、コメディタッチの『俺たちに明日はない』のような展開。とにかく面白い。物語とはうらはらに感情的起伏のない二人の声優の演技にも、うっかり涙するような魅力があります。後半、最近の凄惨な事件を想起させる暴力的な描写を伴うので、そういった刺激はあるけれど、じっとこちらを見据える男に対峙し、現代の何をつかまえようとしているか見てもらいたいです。
最後に一つ、『MAHOROBA』と『無法の愛』には、メインキャストが映画館で映画を見るシーンが描かれている共通項があります。映画館で映画を見るシーンがある映画は例外なく良作というジンクスが私の中にあり、本作も然り!片方は映画泥棒をしているのですけどね(笑)。