クリエイティブシェアオフィスtabの公式サイトです。

Orgofa『虹より高くあざやかに』

本日10月28日から開催されるOrgofa(オルオブエー)による演劇公演『虹より高くあざやかに』は同性愛カップルを描いた作品だ。札幌では(少なくとも僕が知る範囲では)珍しい「現在」を描いたオリジナル作品である。

日本では現在まで同性の結婚は認められていない。その現状を変えようといわゆる「結婚の自由をすべての人に訴訟」が今も日本各地で行われているらしい。同性の結婚を認めないのは憲法に違反していると訴え、2021年3月の札幌地裁では憲法違反であるという判決が下された。それは歴史的な判決らしく様々なメディアで報道されていた。(詳しくはわかってないので間違ってるかもしれません)。

セクシャルマイノリティ(性的少数者)に関する社会的な動きは近年一般に認知されてきた印象だ。とはいえ自分事として考えるには距離がある。私自身「結婚の自由をすべての人に訴訟」については報道とSNSで僅かに流れてくるものを見かけた程度で詳しく調べたこともなかった。

そこに出てくる人物は、まるで教科書の登場人物のようだ。自由民権運動の板垣退助と変わりはない。他人事という言葉以上にどこか今の自分と関わりのない世界のように感じてしまう。自分と同じように生きている人がそこにいる(いた)と想像することは難しい。

報道よりはドラマのほうが少しは想像が広がる。情報を発信する報道に対しドラマは人間を描いているからだ。そこで描かれた範囲の中だけでも想像できるぶん、感情移入の余地が生まれる。となると果たしてどんなドラマを描くのか、ということで大きく変わってくる。

話を最初に戻して『虹より高くあざやかに』は何を描くのか。この物語は「結婚の自由をすべての人に訴訟」北海道訴訟控訴人の1人をモデルとした作品だ。直接インタビューを行ったうえで演劇家族スイートホームの髙橋正子さんが描き下ろし、今回リーディング公演という形で公演が行われる。

機会があり台本を読ませていただいた。そこには明らかにモデルとなった人物が登場する。しかし描かれていそうな社会を変えようと奮闘する姿はそれほど描かれていなかった。メインはその人物のパートナーとの日々、他愛もないやりとりが中心だ。一緒に住んでるから家事の手分けをどうするか相談したり、カーテンの色を何色にしたらいいか話し合ったりしている。近くにいるからこそ衝突もする。
仕事だけでも忙しい日々を過ごす中、お互いのことを気遣いながら過ごしてる。そこに描かれた二人はおそらく現実の誰と置き換わっても何らおかしくない、ごくありふれた人々だった。違うとしたらずっと一緒にいたいと思っても、異性愛者には存在する社会制度がないということくらいだ。

物語を通してセクシャルマイノリティという、あたかも物語の登場人物のように見えていた人々が実際は自分となんら変わらない存在であるということに気づく。
もちろん自分とイコールではない。それは自分と隣にいる人でさえイコールではないので当然のことだ。いくら身近な存在であっても同じ思想を持って同じ行動をするわけでもない。そういう「特別ではない誰か」という意味で、自分や身の回りの人々となんら変わらない存在であるということに気づかされるのだ。

ましてや彼らは札幌に住んでおり、現実にある建物が登場し彼らはそこで働いていたりする。それは公演が行われる場所の目と鼻の先であり、なんなら公演を観に行く前に通ったかもしれない。観た後帰り道に立ち寄れるかもしれない。そこに彼らは存在している可能性があり、自分と同じ景色を見ていたことになる。

「あくまでフィクションだから」と言うことはできるが、この物語は現実に札幌に住んでいる人にインタビューをして作られている。つまり虚実ないまぜになっている物語なわけで、私には彼らの言動は全て実在の人物から出てきた言葉のように感じられた。そう思ってしまったというのが正しいかもしれない。

果たして、物語は自分の日常へと繋がっていく。

繋がったんだからもっと意識しろ勉強しろ行動しろという話ではない。ただちょっと世界の見え方が変わるだけだ。この物語を観た後に「結婚の自由をすべての人に訴訟」の報道を見かけたら、それまでとはちょっと違って見えるだろう。今までより少し感情が動いたり何かを考えたりするのではないだろうか。それは例えばテレビに知り合いが写ってたらちょっと嬉しかったり頑張れって思ったりするような。

少なくとも自分はそんなふうにこの出来事を見るようになるだろう。自分の感情がどんな起伏をするのかはまだわからない。もちろん中には勉強したり行動する人も現れるかもしれない。文字ではなく目の前で人がセリフを言う様子を見るのはまた違った印象を受けるだろう。今回はリーディング公演とのことで想像力を働かせながら本番を観劇しようと思う。

page_top