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沖田修一監督『子供はわかってあげない』

これまで、どちらかと言えば中高年の人々を中心に描いてきた沖田監督には珍しい、女子高生のひと夏の青春物語。「一体なんなのだ、この気持ちは」と彼女が出合う説明のできない戸惑いを、説明的な映像ではなく、血の通った映画の運動によって成立させた傑作だった。

幼児期に別れたきりの父親に、女子高生が内緒で会いに行く。しかも父が当時離婚した理由は、ある宗教団体の教祖になっていたからだ。ーーーこう書くといくらでもドラマが生まれそうだし、おっと、もしやここから宗教二世映画『星の子』の沖田監督版が…?と思うが、一切ない。「お父さん、私より宗教が大事だったの?」と涙ながらに問い詰める場面もなし。なんもない。指圧師として一人暮らす父親に、泳ぎを教え、食事を共にして帰ってくるだけなのである。

しかし全てが尊すぎて、何だこの気持ちは!と叫びたくなるのが観客側だからすごい。長回しも、躍動するカメラも、ぜんぶ「今ここだけ」の彼女の気持ちとともにあって、映画ができている。

沖田監督の映画は、「この内容で映画ができるんだな…」と毎回驚くばかりだ。多幸感とともに。『南極料理人』は南極で働く中年男性の生活と食事。『横道世之介』は昔の友人の死と感傷的すぎない今。『滝を見に行く』は中年女性の賑やかな遭難(笑)。いずれも大きな出来事は何一つ起きないのに、なぜこんなにも面白く映画が成立するのだろう。天才!

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