1980年代初頭。『ディア・ハンター』(78年)で米国アカデミー賞の作品賞、監督賞をはじめとする5部門を受賞し、アメリカ映画の今後の担い手と期待されていたマイケル・チミノ監督の『天国の門』。その映画は予算も撮影期間も当初の予定を大幅に超え、実に製作費4400万ドル(当時のレート換算約80億円)という巨額が投じられた。当初のヴァージョンが切り刻まれて150分の作品として公開されるも、酷評の憂き目に遭い、興行的にも大惨敗。 結果的に映画制作会社を倒産に追い込み、映画史上最も呪われた問題作として歴史に刻まれることになってしまったのである。しかし修復不可能といわれていた本作は、チミノ自身の監修によるデジタル修復で更に鮮度を増して蘇った。2012年にヴェネチア映画祭にて、216分ヴァージョンとして上映。30年以上の時を経て、ようやくその真価が証明されたのである。呪われた映画として封をされた『天国の門』の生命の解放は、復元と言うよりも再生と呼ぶに相応しい。悲しみの銃声が、今、私たちの耳元で響き始める――。